レガシー産業のイノベーション | クレストホールディングス(株)代表取締役社長 永井俊輔・取締役 望田竜太

「私たちはレガシー産業のイノベーションをテーマにし、市場の成長性が低く、生産性が低く、かつ分散型市場と言われる市場の革新を目指す」と話しているのは、クレストホールディングス株式会社の代表取締役社長 永井俊輔(ながい しゅんすけ)さんです。

小売事業がメインのクレストホールディングスは、昨年9月に創業57年の老舗木材屋をM&Aにて買収しました。今までとは全く違う業種である木材業界を

  • どういう理由で選んだのか
  • 何を基準に買収に至ったのか
  • デューデリジェンスの依頼先を選ぶ基準

などについて、永井代表とファンド出身の望田竜太(もちだ りゅうた)取締役にお話を伺いしました。

M&Aにて会社を買収して新しい業種への進出を検討されている方、デューデリジェンス、PMIの進め方などについて知りたい方には大変参考になる内容となっていますので、ぜひ最後までお読みください。

1、サイン&ディスプレイ業界の雄でありながら、レガシー産業のイノベーションを目指す

八木:永井代表は事業承継にてクレストを引き継がれて、元々の看板事業にテクノロジーを導入し、ディスプレイを見た数や店舗への流入量を年齢・性別ごとに計測し、関心度を分析できる小型トラッキングカメラ「esasy(エサシー)」を展開しました。

ディスプレイを計測しようと思ったきっかけはなんでしょうか?

永井代表:洋服屋さん等の小売事業のショーウィンドウディスプレイを作る事業を行っていたのですが、実際にディスプレイの変化によってどのような効果が得られたのか、数値化する必要があると思ったのがきっかけでした。

八木:ただショーウィンドウディスプレイを設置するのではなく、設置する効果をきちんと計測するということですね。

従来のディスプレイ市場の常識を覆した戦略ではないでしょうか。

永井代表:そうですね。今まではディスプレイの効果は感覚値でしか測定できていなかったのですが、このように計測することによって、最適な投資対効果を計測することができるようになります。

個人情報は一切保存されないので、業種問わず活用することができます。

八木:投資対効果を計測することは大切ですね。

代表の経歴を拝見したところ、今の会社を引き継がれる前に大手ベンチャーキャピタル、ジャフコに勤めていたのですね。経営者でありながらM&Aのプロでもある代表は、今後もM&Aを積極的に進めたいとお考えでしょうか?

永井代表:はい、積極的に進めたいと考えています。

八木:買収したい業種はありますか?

永井代表:私たちは「レガシー産業のイノベーション」をテーマにしていて、市場の成長性が低く、生産性が低く、かつ分散型市場と言われる市場の進出を検討しています

望田取締役:M&Aはもちろん積極的に進めていきたいと考えていますが、それは1つの手法であるという考え方です。私たちのテーマはレガシー産業のイノベーションなので、多くの会社に復活して欲しいと考えており、そのためには多くの会社と関わる必要があります。

自分たちが関わる会社の数を増やすために、M&Aは1つの手法としつつ、その他の関わり方も今後のステップとして考えています。

八木:M&Aの他にも様々な取り組みがあるのですね。

望田取締役:例えばとある業種におけるLMI(レガシーマーケットイノベーション)パッケージを提供したり、イベントを開催したり、コンソーシアムを作って定期的に情報交換をしたりなども検討しています。今は経済産業省とも話し合いを進めています。

八木:どんどん大きくなっていきそうですね。

望田取締役:代表が執筆した本が出版されましたが、このようにできるところから少しずつ進めていき、メディアへの露出も増やしていきたいと考えています。

私たちの真髄はレガシー産業のイノベーションをレガシー産業の人たちが、自ら起こせるようなPMI(M&Aを実施したあとに行われる事業や事業経営の統合のことを言います)を行うことだと思っています。

2、老舗の木材屋を買収?レガシー産業のイノベーションをするためのM&A

八木:昨年の9月に創業57年の老舗木材屋を買収されたようですね。御社の既存事業とは全く違う業種になると思いますが、買収した理由を伺ってもいいですか?

望田取締役:M&Aをした理由は大きく2つあります。

クレストホールディングスの事業は、メインは小売事業でした。実際に小売事業のイノベーションはある程度着手できているところもあり、次の事業として新しい業種を始めたいというのが1つの理由として挙げられます。

2つ目はなんで木材業界なのかというところですが、それは私たちの中でこういう業界ならPMIがうまくいくという自負があって、その選定基準に満たしたのが木材業界でした。

八木:PMIを軸に買収先を選ぶとのことでしょうか?

望田取締役:そうです。これはみなさんにもぜひ認識して頂きたいことですが、PMIを念頭にM&Aをしないと大体失敗します

八木:買収したあとの組織化が難しいですよね。

御社が軸にしている基準を詳しく教えてもらえますか?

望田取締役:あくまで「現状の」ですが、基準は大きく5つあります。

1つ目は「BtoB」です。顧客は個人ではなく、法人ですね。

2つ目は「分散市場」です。

八木:分散市場というのは?

望田取締役:会社の規模が大きくなれば勝てるという業界ではなく、競争の原理は規模ではなく、強いプレイヤーがいなくて、市場シェアが分散していることです。

八木:業界内のシェアが偏っていないということでしょうか?

望田取締役:そうです。ちょっと頑張れば伸ばせる可能性が十分にあるということです。

八木:伸びしろが大きい業界ということですね?

望田取締役:その通りです。3つ目は「労働集約型産業」で、4つ目は「デジタル活用が進んでいない」ことです。

八木:昔のやり方をされている業界ですね。

望田取締役:5つ目は「プロダクトアウト思考」です。分かりやすく言うと顧客主義ではないという意味です。お客さんをメインで物事を考えているわけではなく、自社で作れるものを売るという職人気質的なことを言います。

八木:自社主義ということですね。

望田取締役:こういう会社は、お客さんはどういうものが必要なのかと少し考え方を変えるだけで、売上を伸ばせる可能性が大きいです。

八木:自社主義を顧客主義に変えていくということですね。

望田取締役:上記の5つの基準で探していく中で、木材業界がぴったりでした。

八木:条件がクリアしたとは言え、木材業界に進出するのはなかなか勇気がいるのではないでしょうか。

望田取締役:代表の永井は周りから頭がおかしいんじゃないかとよく言われましたね(笑)

永井代表:みんなに言われましたね(笑)木材業界というと漠然としたイメージしかなく、思考停止する方が多いですよね。

八木:言われたのですか(笑)身近な存在ではないから、私も漠然としたイメージですね。

この木材会社を買収すると決めた理由はなんでしょうか?

望田取締役:ちょうど弊社が売り案件を探していた時に、この木材会社の情報を見つけました。

複数社が買収の検討をしていたようですが、他社からは売却価格が高いと評価されていました。しかし、私たちは安いと評価しすぐ買収交渉に進めました。

八木:他社と真逆の評価を出したのですね。

安いと判断した理由を伺ってもいいですか?

永井代表:その会社は本当に磨けば輝く原石がたくさんありました。例えば既存の商品だったり、顧客基盤だったり、取引先だったり、固定資産だったりということです。

望田取締役:他に検討をされている会社はそれに気づくことができず、私たちはそれを見つけて評価をつけることができたのです。

八木:やはりおふた方はM&Aのプロだから見つけられたのですね。

望田取締役:本気でレガシー経営していて、かつM&Aの知識があるからだと思います。

八木:経営のノウハウがあったうえでのM&Aの知識ですね。

望田取締役:経営者でかつM&Aの知識がある方は少ないですよね。代表の永井は両方の知識があるので、非常に珍しいのだと思います。

永井代表:これは弊社の強みとも言えます。自分たちで買収先の価値を決めることができます。

3、ビジネスデューデリジェンスとは?デューデリジェンスの依頼先の選び方

八木:M&Aをしていく中で高い専門知識を求められたり、交渉が大変だったりなど苦労したというお話を伺いするのですが、御社は今回の木材屋を買収していく中で苦労したところはありましたでしょうか?

望田取締役:弊社は私も代表の永井もM&Aの知識があるので、基本的なところは自分たちで対応し、デューデリジェンスは各分野の専門家に依頼しました。

八木:経営者ご自身でM&Aを進められるのは強いですね。デューデリジェンスを実施した分野を伺ってもいいですか?

望田取締役:今回は財務、税務、法務とビジネスの4つの分野を実施しました。

八木:一般的には財務、税務、法務のデューデリジェンスをされるケースが多いですが、ビジネスデューデリジェンスもされたのですね?

望田取締役:先程、弊社が勝てる基準、買収する業種の基準があるという話をしたと思いますが、ビジネスデューデリジェンスでは、その基準に本当に満たしているかどうかを調べてもらいました。

八木:御社の仮説が本当に当っているかどうかを調べることですね。

それぞれのデューデリジェンスの依頼先を選ぶ基準とかありますか?

永井代表:ビジネスデューデリジェンスはその産業に詳しい人です。

法務は優秀な弁護士の先生を選びました。こちらから優秀な先生をつけることによって、相手にもきちんと対応してもらえるというメリットがあります。

八木:やはり優秀な方を選ぶことが重要ですね。

財務、税務はどうでしょう?

永井代表:財務、税務に関しては、その後のPMIを見越して依頼先を選びました

八木:その後のコンサルティングも依頼したということでしょうか?

永井代表:弊社の場合はグループに監査法人が入っているので、グループ全体の流れが分かっていることから、そのまま依頼しました。

4、PMIのポイントは?組織のモチベーションを上げることが最も重要?

八木:冒頭にPMIがうまくいかないとM&Aは失敗するというお話をされていたのですが、今回の木材屋のPMIのポイントを伺いできますか?

永井代表:弊社は中小企業、レガシー産業のPMIを非常に得意としています。

ビジネスを結合してなにかやるとか、衰退した会社を再生させるとか、システム導入してテクニカル面で成長させることなどができる人は多くいらっしゃると思いますが、私達はマインド、メンバーの士気を高めて、新たなトップが入ってきて再成長を遂げる、新しいリーダーシップを出すことが得意ですし、PMIにおいても最も重視しているところです。

八木:組織再編というとことでしょうか?

永井代表:組織のモチベーションですね。もちろん買収されて株主が変わりますし、場合によって経営者も変わって会社が変わるのですが、その時に新たな心、新たにみんなで力を合わせてやっていきましょうというモチベーション、情熱を私たちは重視しています。

八木:人は慣れている環境、慣れている仕事を好む傾向が強く、会社が売却されて、新しい経営者になり、新しい環境になって、その変化についていけない人は多いのではないかと思います。

組織のモチベーションを高めていくために、どのような取り組みをされているのでしょうか?

望田取締役:変わることが必要です。まずは変わるということを決めるのです。変わることはつらいですが、しかし、変わらないと会社は淘汰されてしまうということをまず正直に伝えます。

それを伝えることによって、みなさんは変わらないといけないことを理解してくれます。

八木:まずはみなさんに現状を知ってもらうことですね。

望田取締役:次にその変え方ですが、ただ強制的に変えさせるのではなく、変えるのって楽しいんだということを伝えていきます。

八木:変わることのメリットですね。

望田取締役:そうです。弊社では、最初はデジタル化することから変えていきますので、デジタル化することによって、こんなに効率がよくなるんだ、こんなに楽になるんだと実感してもらうことができます。

八木:ご自身でそのメリットを味わってもらうことによって、モチベーションを高めていくのですね。

その期間はどのくらいでしょうか?

望田取締役:一般的には半年が1つの目安でしょうが、永井代表の場合は1日ですね。本当に人のマインドを変える天才だと思っています。

八木:わずか1日ですか?どのようなことをされるのですか?

永井代表:新しい経営陣、新しい株主である私たちの方が、圧倒的にこの会社を救えるし、安心できることを伝えます

八木:安心感を与えるのですね。

永井代表:もちろんリスクも伝えますが、しかし、それを乗り越えれば必ずうまくいく、私たちと一緒に頑張れば必ず成功する、というとてつもない自信を伝えます。とてつもない自信を持ってもらうという作業は1日があれば、みなさんに伝えることができます。

八木:今の話で永井代表の熱意が伝わってきます。

今までのM&Aは御社がそのまま経営されているケースとなっていますが、今後は経営をどなたかに任せることも考えていますか?

永井代表:そのような方がいればぜひ任せたいですね。

ただし、その場合要求はものすごく多くなります。私たちが直接社長として経営するのと、同じ水準で物事を考えて欲しいし、当然私たちが求める水準に合わせてもらいます。どんどん厳しく攻めていくと思います。

八木:その基準は相当厳しいでしょう。

社長になってもらいたい人の基準はありますか?

望田取締役:熱量と品格ではないでしょうか。

弊社のグループ会社になりますので、レガシー産業のイノベーションを本気でしたいと思ってくれて、そこに対して真摯に向き合ってくれる人だったら、ぜひ社長にしたいと思います。

八木:本当におふた方の熱い気持ちが伝わってきます。

私もご一緒にできるよう頑張りたいと思います。

八木チエ

八木チエM&A INFO プロデューサー

投稿者プロフィール

大学卒業後、7年間IT会社の営業を経験し、弁護士事務所に転職。
弁護士事務所で培った不動産投資の知識を活かし、業界初の不動産投資に特化したメディアを立ち上げ。2018年に株式会社エワルエージェントを設立。不動産投資「Estate Luv」、保険「Insurance Luv」などのメディア運営やメディアのコンサル事業に特化。
M&A業界が盛んになった今、M&Aの情報を正しく伝えたい、もっと多くの人にM&Aの魅力を知ってもらいたいと思い、M&Aに特化したメディア「M&A INFO」を立ち上げ。より有益な情報を多く配信している。

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